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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)679号 決定 1958年5月15日

抗告人 会沢勇太郎

主文

本件抗告を却下する。

本件原状回復の申立を却下する。

各申立費用は総て抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並に理由は末尾添附の抗告理由書記載のとおりである。

なお抗告人は本件即時抗告については家事審判法第十四条の規定によりその期間は十四日と解すべきであり、右期間内に申立てられた右即時抗告は適法である。仮に、右即時抗告の期間について民事訴訟法第四百十五条が適用され、その期間が七日と解されるときは本件即時抗告は右期間経過後に申立てられたこととなるけれども、それは抗告人において法律の解釈を異にしたためであつて、抗告人の責に帰すべからざる事由によるものであるから、このことを知つた後七日間内に申立てた本件即時抗告は適法なものとして許されねばならないと主張する。

よつて先ず職権をもつて本件記録につき調査するに、抗告人は水戸家庭裁判所常陸太田支部昭和三十年(家)第五一二号準禁治産宣告申立事件について同年八月二十五日同庁において準禁治産の宣告を受け、その審判は昭和三十一年七月三日確定したが、同年八月三十一日同庁に右宣告の取消を求める旨申立てた(同庁昭和三十一年(家)第六二六号)ので、同庁家事審判官花岡学は昭和三十二年九月十八日職権をもつて「大原重雄をして抗告人の精神状況を鑑定させる」旨決定したところ、同年十月二日抗告人は右鑑定人を忌避する旨申し立て、同年十月九日同家事審判官によつて右忌避申立を却下する旨決定せられ、同月十六日右決定の謄本の送達を受け、同月二十八日同庁に右決定に対する本件抗告状を提出したことが認められる。すなわち同家事審判官は前示宣告を取消すべきか否かを決定するため必要があるものとして鑑定人大原重雄に抗告人の精神状況を鑑定させようとしたものであつて、家事審判法、家事審判規則は鑑定について格別の規定を設けず、その手続については民事訴訟法によることとしており、抗告人もまた同法第三百五条に則り忌避申立をしたことは本件記録上明白である。思うに家事審判法第十四条は審判に対しては、即時抗告をすることができる旨を定め、不服の対象となる審判には同条に別段制限の文字が記されてないのであつて、これを同法第九条に掲げる審判に限るものとするのは、もちろん狭きに失するけれど、家庭裁判所の一切の審判に対し即時抗告をすることができるものと解するのは、家事審判規則中に即時抗告をすることができる人と、即時抗告の対象となり得る審判とを明示した多くの規定に照らして広きに過ぎるものと云わなければならない。ところで鑑定の手続は前記のとおり家事審判法に規定しないで、民事訴訟法に譲つているのであるから、家事審判事件における鑑定手続については、それが家事審判官によつてなされる審判であつても家事審判法第十四条に云う審判には含まれていないものと解するのが相当である。もしそうでないとすれば、民事訴訟法第三百六条第三項で忌避を理由ありとする決定に対しては不服を申立てられないことになつているのに家事審判事件においては忌避を理由ありとする場合においても家事審判法第十四条で不服申立を許さざるを得ないという不当な結果を生ずるからである。

かくて家事審判事件においても鑑定人に対する忌避申立を許すか否か、忌避申立に対する審判に対して不服申立を許すか否かはすべて民事訴訟法に則るべきものである以上、不服申立を許す場合に於ても、その不服申立期間は同法第四百十五条に従い、裁判(審判)の告知のあつた日から一週間内に限られることはもとより当然というべきであろう。何となれば一般的に云つて同じく民事訴訟手続に則るべき証拠調に関する不服申立期間を民事訴訟事件におけると家事審判事件におけるとによつて差別すべき謂はなく、稍々具体的に云えば民事訴訟事件において過料に処せられた証人の不服申立期間が一週間で足るものとする以上、家事審判事件における証人が同様の申立をするには二週間を要するものとすべき合理的理由は見当らない。強いて云えば、家事審判における事件関係者が、民事訴訟法により不服申立をする場合は、法律に詳でない者も少くないから、家事審判法第十四条を準用又は適用して不服申立期間を二週間とすべき合理的根拠が認められるのではないかと云う点であるが、前述のとおり一週間で足るものまでも二週間にしてしまうことは法律上の権衡を失する結果となるし、不服申立人如何によつて不服申立期間を或る場合は一週間、他の場合は二週間と二様に解釈することは当を得たものではない。

これを要するに本件忌避申立却下の審判に対してはその告知のあつた日から一週間内に即時抗告をしなければならない。しかるに抗告人が右告知をうけた後一週間以上経過してから本件即時抗告をしたことは冒頭説示のとおりであるから本件抗告は不適法として却下するの外はない。

なお抗告人は右説示と法律の解釈を異にし、本件不服申立期間を二週間と考えていたと主張するのであるが、特段の事情の認められない本件においては、この解釈の誤が抗告人の責に帰せられない事由であるとは認められないから、原状回復の申立もこれを許容するに由ない。

よつて本件各申立費用を抗告人に負担させることとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 梶村敏樹 判事 岡崎隆 判事 堀田繁勝)

抗告の理由

抗告人が鑑定人大原重雄の忌避申立は、即ち、最初抗告人から茨城県久慈郡大子町大子医博小林恭次郎並に茨城県立内原精神病院山田春雄医博の二医師を、鑑定人に指定せられるよう申立たところ、審判官は理由なくこれを不採用として、審判官は独断で職権のみで水戸家庭裁判所嘱託医師広瀬三郎を鑑定人に指定したので抗告人が広瀬三郎を忌避したため、審判官は審判官のみで医師大原重雄を鑑定人に指定した。

審判官のみの独断でなした鑑定人指定はこれは抗告人の申立を全然入れていないから独善となる。審判官だけの鑑定人指定は、鑑定人をして審判官が抗告人と、相手方の双方を喧嘩の相手まで鑑定人に参考事情として相手方の中傷悪口を聴取させそれを鑑定書に記載されるのである。

何となれば両者の意見を聴取するからである。

初の鑑定した広瀬三郎がその事実がある。

人の鑑定するのは鑑定を受ける人の生理体の疾患の有無並に其より出ずる精神状態を鑑定すべきであつて、喧嘩の相手を聴取する鑑定はウソであるからである。

そして審判官の意見で或は感情的にも鑑定人を支配し鑑定を受ける人を著るしく不利益にするのである。

抗告人の申立を全部不採用にして審判官だけで鑑定人を指定すれば、鑑定人は鑑定を受ける人の陳述を鑑定人は全然これをしりぞけ或は捨てて、鑑定人が独断で鑑定書を鑑定人の気儘勝手に作成するのである。

審判官が準禁治産宣告をしたその初の原因となつた鑑定のとき抗告人は昭和三十年七月、「診断書を町の医師から貰つて、提出する」と申立たところ、当時の審判官は「それはいい(否定)家庭裁判所の医師に鑑定して貰うから」と無理に抗告人を水戸家庭裁判所に連行し、水戸家庭裁判所の医師広瀬三郎に職権で鑑定を受けしめ、鑑定人広瀬三郎は抗告人に対し医師に鑑定人に俺は精神異状者でもなければ精神耗弱者でもないと、申しても無駄だと言つて抗告人の陳述を全然聴かず且つ抗告人の生理体の診察をせず生理体からの精神状態の鑑定をせずに、逆に喧嘩の相手たる準禁治産宣告申立人会沢あき長女沼田はる両名の言分を聴き会沢あき沼田はるは抗告人の財産欲しさに中傷悪口、ウソを参考事情として、広瀬三郎に申立てたのでそれにより広瀬三郎はウソの鑑定書をデッチ上げたのである。

このように審判官だけで鑑定人指定をすると、鑑定人は、勝手気儘な鑑定人の都合のよいように独善に鑑定書を書き上げることは本件証拠の内容で示す通りである。

その結果抗告人の証拠の提出は鑑定人から拒否され、鑑定の真正を害し且つ抗告人が不利益を蒙り鑑定の真正を害すのである。

右のように、審判官が抗告人の、申立を全然理由なく不採用とし並に拒否して審判官が医師大原重雄を独断で独善に審判官だけで医師大原重雄に鑑定人指定したことは前のウソの鑑定をした広瀬三郎の鑑定と同じものとなりウソの鑑定をすることになり鑑定の真正を害し指定せられた鑑定人が誠実に鑑定をなすことが出来ないから、抗告人がなした鑑定人の忌避申立を却下したことは不当であつて家事審判法第十四条民事訴訟法第三百五条、家事審判規則第七条第三項によりここに抗告をなす次第である。

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